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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)20号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

1 請求の原因四1について

前記当事者間に争いのない請求の原因二の本願発明の特許請求の範囲及び成立に争いのない甲第二号証により認められる本願明細書及び図面の記載、特に同図面(別紙第一図面)第2ないし第5図に示す実施例を説明する部分の記載によれば、本願発明の特許請求の範囲中「隔壁をはさんで相対向する一対の凹溝の両側に室内側部分と室外側部分を連設した形材を一体に押出成形し、上記相対向する各凹溝内及び各凹溝の間へ断熱材を充填硬化させた後、両凹溝間に介在する隔壁を長手方向にわたつて切除することにより形材を室内外に二分し、」の点は、従来公知の断熱形材の製作方法と異なるところはなく、本願発明の特徴とするところは、右の隔壁を「切除することによつて生じた形材の開口部に断熱材を充填すること」にあること、そして、この開口部に断熱材を充填することによつて、切除面に露出する表面処理されていない金属の地肌を確実に隠蔽して、形材の外観を損う問題点を解消し、また、切除面が直接外気に触れることによつて生ずる腐食の防止を確実にし、更に、隔壁を切除することによつて生ずる形材強度の低下を抑え強度面の補強を図ることができるという効果を奏するものであることが認められる。

一方、引用例に審決がその理由の要点2において認定する断熱形材の製作方法が記載されていることは当事者間に争いがない。この事実と成立に争いのない甲第三号証により認められる引用例の考案の詳細な説明及び図面(別紙第二図面)第3、第4図の記載によれば、引用例の窓枠において二本の細溝7、7の中央部分4´を取除いて生ずる形材の切欠部は、本願発明の前示隔壁を切除することによつて生じる形材の開口部に等しいこと、右中央部分4´は、細溝7、7が設けられていることから手などで引張ることにより容易に取除くことができるものではあるが、もともと接続板4の一部であるから、これを取除けば接続板4、4に切除面が必らず生ずるものであることが認められる。そして、この切除面が、前示甲第二号証により認められる本願明細書中に従来公知の断熱形材の有する問題点として指摘されている欠点を有すること、すなわち「当該切除面イ、ロは表面処理されていない金属の地肌のままであるため、特にブロンズやゴールドなどの着色表面処理された形材については、その美的外観を損ねる欠点を有しているとともに、外気に直接触れることにより腐食を招く問題点をも有しているのであり、又、当該断燃形材をサツシの枠材として使用する場合に、外観上の考慮からその切除面イ、ロを例えばモルタルに接する側に設けるとモルタルとの接触により腐食を招く問題点を有している」(同号証二欄二七ないし三六行)こと、また、引用例においても、中央部分4´を除去すれば形材の強度が低下することにおいて、本願発明の隔壁を切除した場合と異ならないことは、自ら明らかである。

以上の事実によれば、本願発明の隔壁を切除することによつて生じる形材の切除面及び開口部と引用例のものの中央部分4´を取除くことによつて生じる形材の切除面及び開口部との間に何らの差異も見出すことはできず、両者は同一のものであるといわなければならない。

原告は、引用例のものの切除面は極めて薄い線状の切口であり、その開口部は本願発明の開口部と異なると主張するけれども、前示本願発明の特許請求の範囲によれば、隔壁を切除することにより形材に生ずる切除面が極めて薄い線状の切口であつてはならないことは、本願発明の必須の要件とされていないことが認められるから、右の点をもつて本願発明と引用例のものの開口部の差異とすることはできない。

そして、引用例のものの開口部も、本願発明の開口部と等しく、防食、補強ないし美観保持上の問題点を有することは前叙のとおりであり、前掲甲第二号証及び成立に争いのない乙第二号証の一ないし三によれば、本願出願前、本願発明の断熱形材と同じくアルミニウムを素材とするサツシにつき、その加工及び仕上げの段階において防食、補強ないし美観保持に十分の考慮を払うべきことが当業者の当然遵守すべきことがらとして広く知られていたことが認められるのであるから、引用例の開口部につき右の問題点を解消する措置を講ずる必要のあることは当業者にとり自明のことがらといわなければならない。引用例のものがこのような問題点を考慮する必要がないとする原告の主張及びこれを前提とするその余の主張は誤りであり、採用に値しない。

2 請求の原因四2について

審決の認定するとおり、「切断等の加工により露出した表面被覆された金属の地肌を腐食防止及び外観上の問題点から防食材料で再被覆する」ことが周知慣用の技術事項であることは、当事者間に争いがない。

原告は、右周知慣用の技術事項には、形材の開口部に断熱材を充填することは含まれない旨主張する。

しかしながら、成立に争いのない甲第五号証によれば、審決が右周知慣用の技術事項が示されているとして例示した周知例二には、鋼管の露出面とある程度の厚みを持つ合成樹脂被覆層の切欠部によつて形成された開口部に合成樹脂製被覆材を充填する再被覆技術が開示されており、また、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三によれば、耐食性の付与、装飾、美観の向上のために軽合金素材にプラスチツクライニングを施すこと、このプラスチツクライニングにあつては被膜の厚さを希望どおりの厚さにできる長所があることが本願出願前すでに周知であつたことが認められる。そして、合成樹脂が一般に断熱性を有することが本願出願前周知であつたことは原告の明らかに争わないところであるから、これらの事実によれば、審決認定の周知慣用の技術事項のうちに、形材の開口部に断熱材を充填する技術は当然に含まれているものと理解できる。原告の右主張は、前示認定の周知技術を無視し、根拠なく審決の認定を論難するものであつて、到底採用することができない。

3 請求の原因四3について

前掲甲第二号証により認められる本願明細書中、その図面(別紙第一図面)第2ないし第5図に示す実施例を説明する部分の記載によれば、本願発明の右実施例において、隔壁を切除することによつて生ずる形材の開口部の深さは切除された形材の厚さに相当するものであることが認められる。したがつて、この開口部に断熱材を充填することによつて付加される断熱効果と補強効果は、既設の断熱材に追加される右開口部を満たすに足りる断熱材の物理的増加量に応じて当然に期待され予測される範囲を出ないことが明らかであり、本件全証拠によつても、これを原告の主張するように顕著な相乗効果と認めることはできない。

4 以上のとおり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にこれを取り消すべき違法の点は見当らない。

三 よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとする。

〔編註その一〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

隔壁をはさんで相対向する一対の凹溝の両側に室内側部分と室外側部分を連設した形材を一体に押出成形し、上記相対向する各凹溝内及び各凹溝の間へ断熱材を充填硬化させた後、両凹溝間に介在する隔壁を長手方向にわたつて切除することにより形材を室内外に二分し、次いで、切除することによつて生じた形材の開口部に断熱材を充填することを特徴とする断熱形材の製作方法。

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙第一図面 本願明細書図面

<省略>

<省略>

別紙第二図面 引用例図面

<省略>

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